4.今月のオススメ図書 今月は、澤田瞳子氏を紹介します。 出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 澤田 瞳子《さわだ とうこ》(1977年9月14日) は、日本の小説家。京都府京都市生まれ。同志社女子高等学校、同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院文学研究科博士課程前期修了。専門は奈良仏教史、正倉院文書の研究。母は作家の澤田ふじ子。 今回は、さまざまな受賞または受賞候補作8作品を紹介します。リクエストは番号でもお受けします。 @ 孤鷹《こよう》の天《てん》  (デビュー作。第17回中山義秀文学賞) あらすじ 時は天平宝字《てんぴょう(ほうじ》年間。藤原清河《ふじわらきよかわ》の家に仕える高向斐麻呂《たかむくのひまろ》は14歳で大学寮に入寮した。ひそかに恋心を抱いていた清河の娘・広子《ひろこ》のために、唐《とう》に渡った清河を迎えに行きたいという思いからだった。大学寮で学ぶのは儒学の基本理念である 五常五倫《ごじょうごりん》。若者たちは互いに切磋琢磨しながら、将来は己が国を支えてゆくという希望を胸に抱いていた。 だがそんな純粋な気持ちを裏切るかのように、政治の流れはうねりを増してゆく。 A 満《み》つる月《つき》の如《ごと》し 仏師・定朝《じょうちょう》 (第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、第32回新田次郎文学賞) あらすじ 時は藤原道長《ふじわらみちなが》が権勢を誇る平安時代。若き仏師・定朝はその才能を早くも発揮していた。道長をはじめとする顕官《けんかん》はもちろん、一般庶民も定朝の仏像を心の拠り所とすがった。が、定朝は煩悶《はんもん》していた。貧困、疫病が渦巻く現実を前に、仏像づくりにどんな意味があるのか、と。華やかでありながら権謀術数が渦巻く平安貴族の世界と、渦中に巻き込まれた定朝の清々しいまでの生涯を鮮やかに描く。 B 若冲《じゃくちゅう》 (第9回親鸞賞) あらすじ 奇才の画家・若冲が生涯挑んだものとは─ 緻密《ちみつ》すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗《せんれい》で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか? 作者・澤田瞳子は、そのバックグラウンドを残された作品と史実から丁寧に読み解いていく。 底知れぬ悩みと姿を見せぬ永遠の好敵手─当時の京の都の様子や、池大雅《いけのたいが》、円山応挙《まるやまおうきょ》、与謝蕪村《よさぶそん》、谷文晁《たにぶんちょう》、市川|君圭《くんけい》ら同時代に活躍した画師たちの生き様も交えつつ、次々に作品を生み出していった唯一無二の画師の生涯を徹底して描いた、芸術小説の白眉《はくび》といえる傑作。 C 火定《かじょう》 (第158回直木賞候補、第39回吉川英治文学新人賞候補) あらすじ パンデミックによって浮かび上がる、人間の光と闇。これほどの絶望に、人は立ち向かえるのか。 時は天平、若き官人である蜂田名代《はちだのなしろ》は、光明皇后《こうみょうこうごう》の兄・藤原四子(武智麻呂《むちまろ》、房前《ふささき》、宇合《うまかい》、麻呂《まろ》)によって設立された施薬院《せやくいん》の仕事に嫌気が差していた。 ある日、同輩に連れられて出かけた新羅《しらぎ》到来物の市で、房前の家令《かれい》・猪名部諸男《いなべのもろお》に出会う。施薬院への悪態をつき、医師への憎しみをあらわにする諸男に対して反感を持つ名代だったが、高熱に倒れた遣新羅使《けんしらぎし》の男の面倒をみると連れ帰った行為に興味も抱く。 そんな中、施薬院では、ひどい高熱が数日続いたあと、突如熱が下がるという不思議な病が次々と発生。医師である綱手《つなて》は首をかしげるが、施薬院から早く逃げ出したい名代は気にも留めない。だが、それこそが都を阿鼻叫喚の事態へと陥らせた、“疫神" 豌豆瘡《えんどうそう》(天然痘)の前兆だったのだ。 病の蔓延を食い止めようとする医師たちと、偽りの神を祀り上げて混乱に乗じる者たち─。疫病の流行、政治・医療不信、偽神による詐欺…絶望的な状況で露わになる人間の「業」を圧倒的筆力で描き切った歴史長編。 D 落花《らっか》 (第32回山本周五郎賞候補、第161回直木賞候補) あらすじ 野太い喊声《かんせい》、弓箭《きゅうせん》の高鳴り、馬の嘶き…血の色の花咲く戦場に、なぜかくも心震わせる至誠《しせい》の音が生まれるのか!己の音楽を究めんと、幻の師を追い京から東国へ下った寛朝。そこで彼は、荒ぶる地の化身のようなもののふに出会う。─「坂東のならず者」を誰より理解したのは、後の大僧正《だいそうじょう》その人だった。謀叛人《むほんにん》・平将門《たいらのまさかど》と、仁和寺《にんなじ》の梵唄僧《ぼんばいそう》・寛朝《かんちょう》。男たちの魂の咆哮《ほうこう》が響き合う歴史雄篇《れきしゆうへん》 。俊英《しゅんえい》が描く武士の世の胎動! E 能楽ものがたり 稚児桜《ちござくら》 (第163回直木賞候補) あらすじ わが国最高峰の舞台芸術として受け継がれてきた能楽。長年、能に親しんできた著者が名曲にインスパイアされて生み出した8編の時代小説集。 1「やま巡り」─遊女・百万《ひゃくま》と小鶴は雪山で怪しげな老婆と出会い、一夜の宿を借りることに…。(原曲『山姥《やまんば》』) 2「小狐《こぎつね》の剣」─刀工・小鍛冶宗近《こかじむねちか》の娘・葛女《くずめ》は、父を裏切った弟子の子を身ごもったことに気づき…。(原曲『小鍛冶』) 3「稚児桜」―清水寺の稚児としてたくましく生きる花月《かげつ》。ある日、自分を売り飛ばした父親が突然面会に現れて…。(原曲『花月』) 4「鮎」―天下を取るべく隠棲先の吉野で挙兵した大海人王子《おおあまのおうじ》。間諜の蘇我菟野《そがのうの》は都に急報を告げる機会を窺うが…。(原曲『国栖《くず》』) 5「猟師とその妻」―山で出会った男から「自分は死んだと妻子に伝えてほしい」と頼まれた僧・有慶。その身勝手さに憤りながらも、残された家族の心細さを思い、陸奥へ旅立つことに。(原曲『善知鳥《うとう》』) 6「大臣《おとど》の娘」─義母に疎まれた姫君を密かにかくまう乳母・綿売。ある日、偶然再会した生き別れた娘に秘密を打ち明けてしまう。(原曲『雲雀山《ひばりやま》』) 7「秋の扇」─遊女・花子は、かつて愛を交わした吉田の少将を追って京へ。形見の扇を手に下鴨神社に現れる姿が評判となるが…。(原曲『班女《はんじょ》』) 8「照日《てるひ》の鏡」─高名な巫女・照日ノ前に買われた醜い童女・久利女。翌日、生霊にとりつかれた光源氏の妻・葵上《あおいのうえ》のもとに連れていかれる。(原曲『葵上』) F駆け入りの寺 (第14回舟橋聖一文学賞) あらすじ 誰にだって、逃げ出したい時がある─ 悩みを抱える人々が、駆込寺の門を叩く。 落飾《らくしょく》した皇女が住持を務める比丘尼《びくに》御所《ごしょ》。 そのひとつである林丘寺《りんきゅうじ》では、前住持であり後水尾帝《ごみずのおてい》の皇女・元瑶《げんよう》と、現住持である霊元帝《れいげんてい》 の皇女・元秀《げんしゅう》を中心に、宮中と同じような生活が営まれていた。 四季折々の年中行事、歴代天皇の忌日法要《きにちほうよう》 を欠かさず行い、出家の身でありながら、和歌管弦《わかかんげん》、琴棋書画《きんきしょが》嗜む。 アマたちの平穏で優雅な暮らしの中に、ある日飛び込んできたのは「助けてほしい」と叫ぶ、若い娘だった─。 現世の苦しみから逃れた、その先にあるものとは何なのか。 雅やかで心に染み入る連作時代小説。 G星落ちて、なお (第165回直木賞) あらすじ 鬼才・河鍋暁斎《かわなべきょうさい》を父に持った娘・暁翠《きょうすい》の数奇な人生とは─。 父の影に翻弄され、激動の時代を生き抜いた女絵師の一代記。 不世出の絵師、河鍋暁斎が死んだ。残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。 暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。兄はもとより、弟の記六は根無し草のような生活にどっぷりつかり頼りなく、妹のきくは病弱で長くは生きられそうもない。 河鍋一門の行末はとよの双肩にかかっているのだった─