6.みんなの広場 〇熊谷幸二郎さんの投稿 俳句 鼻唄で浸《つ》かる湯船や虫の声   萩野ケイ バイバイと子等《こら》の声する秋桜《あきざくら》   宇佐美咲子 紅《べに》さして犬と登壇《とうだん》文化の日   柿崎妙子 嬉《うれ》しげに犬先走《さきばし》る山の秋   小笠原秋一 戸締りを暫《しば》し躊躇ふ《ためらう》今日《きょう》の月   熊谷幸二郎 〇エッセイ風自分史・三郎 二八 変な女(その一) 武田金三郎 私が勤務している二ツ井貯木場事業所と二ツ井駅は線路を挟んで向かい合っている。これほど近いものだから、事業所脇の踏み切りの警報機がキンコン鳴ってから線路に飛び降り、そのままホームに上がって注意されることしばしばであった。 駅前に前田食堂がある。創業者のお婆さんは私の前任地、阿仁前田の出身であった。屋号はここからのものである。それでお婆さんと私は話が合った。ここにI子という、二十二,三歳ほどの、まるで変な女としか言い様のない女性が住み込みで働いていた。 彼女は小柄で小太り、顔も丸い。右上の犬歯と小臼歯二本が欠落しているので、口を開けると目立つ。というか、悪く言うと腑抜けに見えなくもない。それに常時ノーブラであった。彼女には幼児がいるが、誰の子か分からない。育てることもできないので、鷹巣町にいる姉が養っているとか。 私が勤務している貯木場事業所への出前は専らI子であった。はじめ、私は彼女が少しばかり脳が不足しているのではないか、と思ったものだ。事業所の荒くれ男連中と平気でスケベ話をしているのには驚いた。 能代市から列車で通勤しているHという作業員がいて、彼と私はときどき前田食堂の居間に上がって昼食を食べたり、ビールを飲んだりすることがあった。彼は酔うと『津軽海峡冬景色』をうなるのだが、「こぼれそうなカモメみつめ泣いていました』と決まって間違える。 夏の暑い土曜日昼過ぎ、Hと私は列車を待ちながら居間でビールを飲んでいたときのことであった。出前の回収を終えたI子が汗を拭きながら入ってきたかと思う間もなく、いきなりシャツをまくり上げて二つの乳房をハンカチでゴシゴシ拭いたのである。 「オヤジったら、こんな暑いさかりに外回りさせるんだがら」 私はあっ気にとられて眺めていたが、Hはニタニタッとして「触ってもええが」と言うのだ。すると彼女も「ああいいよ」と。Hは両乳房をグルグル撫で回してから「武田、お前もやらひでもらえ」、とさすがにテレながら言う。私には手が出ない。気持ちはあったけれど、プライドというか品格がこれを許さなかった。 「オレ、一度でいいがら武田さんとやってみたい」 Hが小便で席を外したとき、I子が私に背を向け、窓の外を眺めながらボツリと呟いたのには動転した。I子の目はまるで幼女のように澄んでいる。こんな女が、と不思議なほどの澄み様なのだ。 貯木場への出前、男連中の蔑みのからかいの中、私だけが彼女の瞳をぼんやりと見つめていること、I子は気がついていたのだ。 ○皆様からの投稿について 「点字図書館だより」に、読んだ本の感想や、体験談、短歌・俳句など利用者の皆様からの投稿をお待ちしております。 お預かりした作品は、「点字図書館だより」内「みんなの広場」でご紹介させて頂きます。 (送付先) 〒011-0943 秋田市土崎港南3丁目2の58 秋田県点字図書館 (FAXを利用の場合は) 018-845-7772 (メールを利用の場合は) アドレス tenji@fukinoto.or.jp いずれも「みんなの広場」係まで お電話での聞き取りでも可能です。