6.みんなの広場 利用者の皆さまからの、お便りや作品を紹介します。 〇熊谷《くまがい》幸二郎さんの投稿 俳句 バーゲンや夏服コーナー人だかり  萩野《はぎの》ケイ 亡き父の遺品整理や水芭蕉  宇佐美咲子 早苗田《さなえだ》の逆《さか》さ鳥海《ちょうかい》絵の如《ごと》し  柿崎妙子 この道が夏の入り口(いりぐち)草匂う  小笠原秋一《しゅういち》 草餅の三つ《みっつ》四つ《よっつ》はおてのもの  熊谷幸二郎 〇武田金三郎さんの投稿 エッセイ風自分史・三郎 その二十六 身障者の友 武田金三郎 上小阿仁村子澤田《こさわだ》の教員住宅の左隣に、私より二歳下のKという青年がいた。彼には脳性麻痺があって言語が聞き取りにくかったものの、たまに一、二度聞き返すだけで会話にはさして支障なかった。 彼は隣の森吉町米内沢《よないざわ》にある印刷書に勤めていて、私も米内沢営林署であったから、朝夕の通勤バスでたいてい一緒になったこともあって、二人はじきに親しくなった。 翌年、kは運転免許を取得し、間もなく軽乗用車を買うと、私は便乗させてもらって一緒に通勤するようになった。 私は彼が身体障害者であることを過度に意識し、信頼関係を深めなければならない、と強く思い込んでいた。Kが運転免許を取得して一ヵ月足らずのことであった。私は彼を太平湖《たいへいこ》ダムへのドライブに誘った。ここは米内沢営林署小滝《こたき》担当区事務所当時の管轄であったのでホームグランドに等しい。 二人はボートで遊び、小又峡《こまたきょう》という名称地を見物して楽しんだ。その帰途であった。家まであと一キロほどの所で砂利にハンドルを取られ、斜面に衝突して車が仰向けに倒れてしまった。車は壊れたものの、二人はかすり傷一つだに負うことなく済んだ。 仮に左側に落ちていたらどうなっていたことか。免許取得後一ヵ月ほどで、慣れない山道を走らせてしまった、これは私の責任でもあった。  以後、二人は親密さを増していったのだが、あるときKから重大な相談を持ちかけられた。彼と同じ職場で働いているn子に恋をしたのだ。同僚たちと居酒屋で飲んでいて泥酔してしまい、嘔吐してしまった。こうなったのは初めてのことである。そのとき、彼女がてきぱきと処理をしてくれたばかりか、洗面所に連れて行ってうがいまでさせてくれた。 n子と結婚したい。彼女の意思を聞いてくれないか、と言うのだ。私はしばしば印刷会社にKを訪ねていたので、彼女をも熟知していた。彼の願望はかなえられない。一方的な片思いに過ぎないではないか。けれど引き受けなければならない。 「あそこに居合わせたら誰だって手を差し出しますよ。それだけのことですから」n子はそれでも申し訳なさそうに言ったものだ。 「そこまでは考えていないと言ってた」 私はKにこれだけを言った。そうしてKは間もなく別の人と結婚にゴールインできた。ところが披露宴の司会を私にやってくれと言う。これにはホトホト困ってしまった。何回断ってもまた持ってくる。それで引き受けてしまったが、結果は惨憺《さんたん》たるものであった。 けれど新郎新婦は順風満帆《じゅんぷうまんぱん》、一児をもうけ、偕老同穴《かいろうどうけつ》の今、千葉に所帯を持っているこの息子夫婦と一緒に暮らしていること、元の住所宛に拙著《せっちょ》を送り、その転送先からの電話で知った。 Kの発語は以前より聞き取りにくくなっていて、しばしば奥さんの解説が必要になっていた。去る者は日々に疎《うと》し。懐かしかったけれど、あれ以来電話することも向こうからかかってくることもなくなっている。 ○皆様からの投稿について 「点字図書館だより」に、読んだ本の感想や、体験談、短歌・俳句など利用者の皆様からの投稿をお待ちしております。 お預かりした作品は、「点字図書館だより」内「みんなの広場」でご紹介させて頂きます。 (送付先) 〒011-0943 秋田市土崎港南3丁目2の58 秋田県点字図書館 (FAXを利用の場合は) 018-845-7772 (メールを利用の場合は) アドレス tenji@fukinoto.or.jp いずれも「みんなの広場」係まで お電話での聞き取りでも可能です。