6.みんなの広場  皆様から投稿していただきました。 俳句の投稿 熊谷幸二郎さん 買い物や大きなビルの夏木陰 萩野ケイ 《かいものやおおきなビルのなつこかげ》 トロッコのレールの跡や夏木陰 宇佐美咲子 《トロッコのレールのあとやなつこかげ》 ハーネスの握りも軽し夏木立 柿崎妙子 《ハーネスの握りもかるしなつこだち》 連れて来てやれなかったね夏木陰 熊谷幸二郎 《つれてきてやれなかったねなつこかげ》 武田金三郎さん 池内紀氏の逝去を悼む 武田金三郎 NHKFMラジオ、日曜日正午のニュースが終ってから二時までの長時間、「日曜喫茶室」という番組があった。司会者がはかま満緒、常連客二人にゲスト二人が加わっての音楽とトーク番組なのだが、私はこれをしばしば聴いていた。池内紀氏はここの常連客の1人であった。 氏の自然で飾り気のない語り口に耳をそば立てていたのだが、あるとき思い切って同番組宛に手紙を差し上げた。よもやと思っていたのに池内氏から返信が届いた。のみならず、手紙文に添えて点訳まで添えてのことである。 なんでも、池内氏の教え子である盲女性がドイツに留学していて、彼女宛の手紙を奥様が点訳して届けていたとのこと。私への点訳も奥様の手によるものであった。私は氏のご配慮にひどく感動した。 池内氏にはドイツ文学者として東京大学教授の経歴がある。ドイツ文学の翻訳や評論の第一人者であるのはむろん、世間にはこれ以上に優れたエッセイストとして知れ渡っている。世間知らずの私ではあっても、ご厚意にこと寄せて私信を送り続けるなどできるわけがない。それでも創作個人誌「森岳発」や単行本を出版する都度お届けはしていた。 するとこれも思いがけないことであったが、氏はハガキで適切なコメントを寄せてくれたものである。のみならず、「少年」が無明舎出版から出版されたとき、月刊『現代』誌に一ページを使って書評を寄せてくれたのであった。私はこれだけで出版が報われた気さえしたものだ。九年ほど前のことである。  昨年、「治療院の客」を同出版社から出版したのだが、池内氏はこれにも「週刊ポスト」誌に書評を寄せてくれていたこと、一年以上も過ぎた今年のお盆になって、妻がパソコンを操っていて奇しくもこれを見つけてくれた。急ぎ、お礼の手紙を差し上げたものの、気がつかないまま、八月三十日の氏の逝去にふれていたなら、取り返しのつかない悔いを引きずらなければならなかったことだろう。  私は一昨年から、エッセイ風自分史「三郎」を書き進め、原稿用紙七百枚を数えた所で脱稿、この九月末出版に向けて刷り込みに入っていた。しかしこれまでの半生のありったけを率直に書いた結果、第三者の尊厳を侵しかねない懸念が数ヵ所にわたって浮上し、出版断念を決意せざるを得なくなった。  私は今、池内氏から寄せていただいた二つの書評を繰り返し読んでいる。書評とは言え、ここには批評がましいところはない。あるのは暖かいまなざしだけだ。ひるがえって今、出版直前で断念した自分史「三郎」、ほぼ二年を費やしての渾身の一作ではあったが、それ故の唯我独善でもあったのだ。 仮に池内氏が「三郎」を読んでくれたら、氏を悲しませたことだろう。そう思うと、ようやく今回の出版断念を受け入れることができそうである。池内紀氏のまなざしを忘れることなく、これからを精進していきたいと思う。氏のご冥福を心よりご祈念いたします。 ○皆様からの投稿について 「点字図書館だより」に、読んだ本の感想や、体験談、短歌・俳句など利用者の皆様からの投稿をお待ちしております。 お預かりした作品は、「点字図書館だより」内「みんなの広場」でご紹介させて頂きます。 (送付先) 〒011−0943 秋田市土崎港南3丁目2の58 秋田県点字図書館 (FAXを利用の場合は) 018−845−7772 (メールを利用の場合は) アドレスtenji@fukinoto.or.jp いずれも「みんなの広場」係まで お電話での聞き取りでも可能です。