4.みんなの広場 秋田市の浅井成雄《あさいしげお》さんより投稿いただきました。 「色も音もなかった一日」 浅井 成雄(六十代) 昭和64年1月7日は休みの土曜日だった。いつもよりゆっくり目覚め大きく 伸びをすると、枕元でラジオが天皇崩御と伝えていた。 午前6時33分、昭和は終った。カーテンの隙間から覗く光は明るい。七草粥をすすって普段通りの生活が始まった。 昨年13時間のデイジーになった「昭和最後の日」(日本テレビ編)を私は一気に読んだ。一つの歴史の終焉を反芻したかった。 この本は昭和62年8月に天皇の病態が明らかになってからこの方を放送の立場で記録している。取材合戦に加えて、病状報道のあり方に悩む姿を綴っている。 後者に関し私は今も憶えている。最初の入院手術後、執刀医の森岡東大教授が記者会見した。説明の途中で同席の皇室侍医が言葉を遮った。そのとき教授は困惑の表情を隠さなかった。それを私は人間臭く感じた。 話はあの日に戻る。お昼前、土崎ジャスコ(現・イオン)へ電気カミソリの部品を買いに出掛けた。道路に雪はなく春の日差しだった。途中の正月飾りが外(はず)され車も少なかった。店内は減光(減ると光)し、BGMなど聞こえない。店員は喪章を付けていた気がする。街は色も音も消えていた。 午後、新元号が発表された。小渕官房長官(当時)が平成と書かれたボードの上下を掲げた。中国の古典から「平和に成る」の意味だそうだ。そんなことより私と父の名前から1字ずつ入っているのが気分よかった。因みに父は「廉平《れんぺい》」といった。またテレビで書家の筆になる成《セイ》を見て正しい書き順を覚えた。 この番組は森光子が司会していた。当然お笑い物は流されない。落語家の柳家小さん(五代目)は寄席を休んだという。翌8日初日の初場所大相撲は9日からに順延となった。 晩の放送は回顧が中心になった。昭和の歴史の貴重な白黒映像が流れた。 私は夜遅くまで呑みながら録画したが、今はビデオ再生方式が変わって見られなくなってしまった。残念。 昭和が平成に改まった1989年は旧ソビエト連邦が崩壊した年でもある。 ついでに私が現在の家に住み始めたのはこの年だった。共に今日までそれぞれの時代が過ぎた。 降る雪や明治は遠くなりにけり(草田男《くさたお》)平成は28年経った。3年間続いたNHKラジオ番組「昭和史を味わう」がこの3月で終了する。そろそろ昭和を追憶の彼方へ押しやるのだろうか。(おわり) 視覚障害者俳句サークル「千秋句会」さんより俳句の投稿いただきました。 ・晩年や 手抜き暮らしの 去年今年《こぞことし》  熊谷 幸二郎 さん ・寒鱈の 祭賑わし 港町  宇佐美 咲子 さん 三種町の武田金三郎さんより投稿いただきました。 秋田県一短い小説・その六 輪廻転生 小学生のころ、サキエにはずっと不思議に思っていることがあった。不思議と言っても、事実はこれほど当たり前のことがないのだけれど。だから彼女は誰にも話したことがない。言えば笑われるに決まっている。それはこうである。 冬の雪景色の中に立っていると、こんなに寒くて寒くてたまらない銀世界なのに、暑くて暑くてたまらない夏がやって来るなんて本当にあるのだろうか。そうして暑くて暑くてたまらない真夏の太陽の下に立っていると、今度は雪に覆われた寒い寒い冬がやって来るなんてあるはずがない。なのに毎年繰り返しやって来るこの不思議。 サキエの不思議はこれだけではない。父さんと母さんがいて、二人の姉ちゃんと二人の兄ちゃん、一人の弟、それにお爺ちゃんとお婆ちゃんと自分がいるこの家族。ここほど居心地が良くってここほど幸福な場所が他にあるはずがない。父さんも母さんも、姉ちゃんや兄ちゃんも弟もお爺ちゃんお婆ちゃんだって皆がそう思っているに決まっている。そうしてこれはサキエの家族だけでなく、どこの家族でも同じに決まっている。 それなのにどうしてお嫁さんになって家を出ていくのだろう。サキエには不思議でならない。もし自分の姉ちゃんたちがこの家を出て行ってしまったら、自分はその淋しさに耐えることができるのだろうか。サキエは将来のそんな光景を考えるだけでも涙ぐんでしまうほど淋しくなってしまうのであった。 あんな子どもの時代があったこと、七十六歳になった今、サキエはしみじみ懐かしく思う。彼女には三人の娘がいる。そうして長女の娘、サキエにとって一番初めの孫なのだが、この孫娘が嫁いだのはつい一ヵ月前のことである。 四十七歳の働き盛り、夫が急逝してから娘たちを育て上げるまで、サキエは自分を男にして働きづめに働いてきた。これまでの半生を振り返るなら今が一番に平安であることは間違いない。けれど淋しい。独り暮らしとなって数年、それほど淋しさを実感しないで過ごしてきていたのに、それからは一つ年を積み重ねるごとに淋しさも積み重なっていく。 このごろサキエの頭に輪廻転生という仏教の言葉がふっと浮かんでくるようになっている。雪が降って寒い冬も季節が巡って暑い夏になり、また冬になっていく。人の世もこれの繰り返しではないか。両親の間に子どもが生まれ、子どもは大人になって結婚をして親になる。彼等の親は祖父母という老人になっている。彼等の子どもたちもやがて子どもを生んで育て上げていく。こうしているうち祖父母たちはこの世を去っていく。 夏が来てやがて冬がやって来る。その繰り返しではあっても、去年の夏と今年の夏は違うし冬もまた違う。七十六回を繰り返した夏と冬にたった一度として同じは無かったことだ。そうして季節も人生も繰り返していく。 輪廻転生。その中で自分は役割を果たすことができた。ならば両親や祖父母たちが老いを生きたように、自分も淋しさを受け入れて生きていかなければならないと思う。 最後に、今月は「点字毎日」の『生活カレンダー』に掲載された、野菜を生で冷凍する「生ベジ冷凍」の方法をご紹介します。 野菜の高値が続いています。せっかく買った野菜を使いきれずにしなびさせてはもったいない限りです。傷みやすい野菜を長期保存し、時短や節約にも役立てたいものです。 葉物、ナスやトマト、キノコといった野菜は、生のまま冷凍が可能といいます。凍ったまま加熱調理するのが基本ですが、キュウリ、千切りキャベツ、ピーマンなどは、流水解凍ですぐに食べられます。 「生ベジ冷凍」の基本は、「新鮮なうちに保存する」「水洗いしてキッチンペーパーでしっかりと水気をふく」「チャック付きの冷凍用保存袋を使う」「1カ月以内に食べる」です。料理の時に使いやすい大きさで切って から、袋に入れるとよいでしょう。ニンジンやキュウリのように凍らせるとくっつくものは、ラップで1回分ずつ包んで保存袋に入れます。 これまで「冷凍は無理」と思われていたレタスも、生食には不向きですが、「レタスの卵スープ」のように加熱すれば大丈夫。即席のカップスープにも冷凍野菜を加えて、栄養アップするのはいかがでしょう。 次に、レタスとナスを使った「生ベジ冷凍」レシピをご紹介します。 レタスの卵スープ 材料(2人分) 卵  2個 冷凍レタス  4分の1個 顆粒鶏ガラスープのもと  小さじ2 ごま油  適量 合わせ調味料A 薄口しょうゆ  大さじ1 合わせ調味料A 酒  大さじ2分の1 作り方 @鍋に水3カップと鶏ガラスープのもとを入れ火にかけ、沸騰したら合わせ調味料Aを加え、溶き卵を流し入れます。レタスを加えひと混ぜして火を止めます。 A器に盛り、ごま油を垂らし、白いりごまを散らし、出来上がりです。 ナスの肉巻きソテー 材料(2人分) 冷凍ナス  8切れ(1本分) 豚ばら肉  4枚 塩、コショウ  各少々 かたくり粉  適量 ごま油  小さじ2 合わせ調味料A だし汁  大さじ1 合わせ調味料A しょうゆ  大さじ1 合わせ調味料A みりん  大さじ1 合わせ調味料A 砂糖  大さじ1    作り方 @豚肉は長さを半分に切って塩、コショウをしナスに巻いてかたくり粉をまぶします。 Aフライパンにごま油を入れ熱し、@の巻き終わりを下にして焼きます。 B全体に火が通ったら、混ぜ合わせた合わせ調味料Aを加えて煮詰め器に盛り、出来上がりです。 以上、「点字毎日 第943号」より抜粋しました。 他に何か、ご希望・ご意見がありましたら、お知らせください。 お待ちしております。